私がワーホリの地としてトロントを選んだ理由はただひとつ。それはアイスホッケーの聖地だからだ。
ワーホリ自体をしようと思ったのはまた別の理由があった。簡単に言えば公私に渡ってどん底の状態にあったのだ。気持ちを切り替えて新たなスタートを切るには大胆に環境を変えるしかないと考えた私は、海外に住んでみるのはどうかという思いにいたった。
それはいわば(前向きと言いたい)現実逃避でもあったのだが、とにかくその時の思いを叶えるのにワーホリはうってつけの方法だった。
1998年、ワーホリビザで行けたのはオーストラリア、ニュージーランド、カナダのたった3カ国。
どの国も当時の私にとって決定的なモチベーションは存在しなかった。サッカーやハードロックにドはまりしていた私は、アメリカ西海岸やイタリアに行ければいいのにと考えていた。
ところがである。あるきっかけで1998年のNHL(ナショナルホッケーリーグ)・オールスターゲームをテレビで観たとき、世の中にこんなおもしろいスポーツがあったのか!!!と感動した。
常に思い立ったが吉日な性格の私は、ワーホリのために貯金をすべきところを後先考えずにカナダへの観戦旅行を決行したのだ。
初めてのゲーム生観戦は想像以上に楽しくて興奮した。楽しすぎて満足するどころかむしろ思いは加速し、ビザをもらえて堂々と働けてホッケーにどっぷり浸れるなんて、これはもう行先はカナダ以外にないでしょう!!!と決心したのである。
また、第一の経済都市であれば大好きな音楽のコンサートなども楽しめるだろうということで、迷わずトロントに決めた。
しかしいくらホッケーの聖地・トロントとはいえ、ほとんどのゲームは有料のケーブルチャンネルで放送されていた。日本のように民放でいつでも地元のプロ野球が観られる状況とは訳が違うのだ。
あいにく私が契約した部屋はケーブルの工事がされていなくて、ゼロから自分で契約しなくてはならない。
住民の大半が必要であろう電話の手続きなら、へたくそなノンネイティブの英語でもどうにかなるだろうと思っていたけど、ケーブル契約となるとそうもいかない。おそるおそる一度ケーブル会社に電話してみたものの、サービスの種類とか工事のこととか全くわからず、「やっぱり検討します」と言って切ってしまった。
さて困った。管理人さんは忙しいみたいでなかなかつかまらないし、質素に暮らしていそうな下の階のアイリーンに聞くのは、なんとなく気がひけた。
そうだ!誰か日本人に聞いてみよう。
図書館にでも行けばきっといっぱい日本人がいるはず。その中でケーブル契約をした人がいるかもしれない!
またもや思い立ったが吉日。急いで支度を済ませ、ダウンタウン中心にあるメトロポリタンライブラリーに向かった。