私は激しく後悔していた。
日本に住んでいて4月ともなれば、桜が花開いて否が応でも期待感のようなものが芽生えるのだろうけど、トロント・ピアソン空港に到着し、ダウンタウンに向かう空港バスからの風景を眺める私の心は悲壮感でいっぱいだった。
色で表現するなら間違いなくグレーだ。それも濃いめのグレー。
空はどんよりと曇り、木には1枚の葉も見られない。
バスのラジオから流れるお気楽なアメリカンロックが逆に気持ちを盛り下げた。
また、最初の滞在に選んだホテルの場所も悪かったのだ。
いうのも、予約したホテルはチャイナタウンの一角にあり、豚の丸焼きやら北京ダックらしきものなどを店頭に飾るチャイニーズレストランが立ち並び、道を歩く人々はアジア人ばかり。
これでは北米カナダにいる雰囲気なんて全く感じることができない。
(後にこれこそトロントの味の一つだと気づくのだが。)
ホテル自体は四つ星だけに部屋は快適だし、フロントの人からコンシェルジュ、おかしな日本語を話す気のいいドアマンにいたるまで全く問題はなかったけど、宿泊3日目には雪まで降り、ますます私の気持ちを寒くさせた。
ホテルの近くに見つけた、決して綺麗ではないが北米の雰囲気あふれる24時間営業のデリに毎朝通い、一日をどう過ごそうかと考えるのが毎日の習慣になっていた。
これから1年間、私はここで暮らす予定だった。
ワーキングホリデーという就業を許可される短期のビザを取得していたのだ。
以前から漠然と海外で暮らしてみたいと考えていた私には、うってつけの方法だった。
いつも行動は早いくせに詰めが甘い私は、日本で英会話を多少勉強した以外はほとんど何も準備しないまま日本を発ったのだった。