前にトロントでは独りぼっちみたいなことを書いたが、正確に言えば、トロントに知り合いがいないわけでもなかった。
東京の中野にあるワーホリ協会で知り合い親しくなった女性が、同じ時期にトロントに行くと言っていたのだ。
そうかといって、お互い最初からべたべたと行動するのを求めていなかったこともあり、暗黙の了解でメールアドレスを交換した程度。どこに住むとか何をするとか込み入った話はしていなかった。
ところが姉と別れて1週間ほどたったある日、bloorーyonge 駅の周辺を歩いていると、偶然彼女に会ったのである。
「きゃーっ!!!元気???」と挨拶を交わし、お互いの近況報告。30分ほど立ち話した後、トロントでの電話番号を交換して別れた。
それからおよそ1ヶ月。彼女の同居人がクラシックコンサートを開くので、一緒に観にいかないかという誘いがきた。
フルート奏者であるその同居人は、決してメジャーではないとはいえCDも出しているらしい。
もともとクラシック音楽は大好きなので、即OKの返事をした。
コンサート当日。会場はとある小さな教会だった。クラシック音楽と同じくらい大好きなステンドグラスの装飾はあまり見られなかったが、一歩足を踏み入れた瞬間、すぅーっと何かに引き込まれる感覚に襲われた。
席についてからしばらく談笑していると、同居人の彼女とピアニストが入場。暖かい拍手が沸いた。
一瞬音が静まる。
ピーンとはりつめた空気を感じた瞬間、バッハの管弦楽組曲第二番、メヌエットの演奏が始まった。
その瞬間、足の先から頭のてっぺんまで全身を突き抜けるかのごとく鳥肌が立った。経験はないが(この時点での話。後にメキシコで体験)まるで全身を電気が流れたような感覚。
昼下がりの教会、フルートとピアノのみで奏でられるバロック音楽。
ふと気がつくと、頬を涙が伝わっていた。